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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)3381号 判決 1994年6月08日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  参加人と控訴人との間において控訴人が被控訴人に対する別紙信託総合口座記載の貸付信託の解約金四六〇万七二九二円について支払を求める権利を有しないことを確認する。

四  参加人の被控訴人に対する請求を棄却する。

五  控訴費用は控訴人の負担とし、参加訴訟費用は、参加人と控訴人との間においては、参加人に生じた費用の二分の一を控訴人の負担とし、その余は各自の負担とし、参加人と被控訴人との間においては、全部参加人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の申立

1  控訴人

(一)  主位的請求

(1) 原判決を取り消す。

(2) 被控訴人は、控訴人に対し、金四六〇万七二九二円及びこれに対する平成五年八月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(4) (2)項につき仮執行宣言。

(二)  当審において追加された予備的請求

被控訴人は、別紙信託総合口座を参加人名義に変更する手続をせよ。

(三)(1)  参加人の控訴人に対する請求を棄却する。

(2)  参加訴訟費用は参加人の負担とする。

2  被控訴人

(一)(1)  主文一、二項と同旨

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

(二)(1)  主文四項と同旨

(2)  参加訴訟費用は参加人の負担とする。

3  参加人

(一)  主文三項と同旨

(二)  被控訴人は、参加人に対し、金四六〇万七二九二円及びこれに対する平成五年八月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(三)  参加訴訟費用は控訴人及び被控訴人の負担とする。

(四)  (二)項につき仮執行宣言

二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

原判決一枚目裏一〇行目の「争いのない事実」の次に「等」を加え、同二枚目表三行目及びそれ以降の「訴外阿部純生」をいずれも「参加人」と改め、同裏四行目の「遺言執行者か、」の次に「あるいは包括受遺者本人か、」を加える。

2  当審における主張

(一)  控訴人の主張(予備的請求につき)

控訴人は、平成五年一一月二九日、被控訴人に対し、別紙信託総合口座を参加人名義に変更するよう請求したが、被控訴人は、これを拒否した。

(二)  参加人の主張

参加人は亡阿曽正榮の遺産全部の包括受遺者である。参加人が右遺贈の放棄、限定承認をしていない本件においては、亡阿曽正榮の一切の権利義務が参加人に帰属するから、被控訴人は参加人に対し、相続人不存在を理由に別紙信託総合口座の解約金の支払を拒むことはできず、これを支払う義務がある。

(三)  被控訴人の主張

本件は、相続人不存在の場合であるから、参加人は、民法第五編第六章の相続人の不存在の手続によるべきであって、被控訴人から直接別紙信託総合口座の解約金の支払を受ける権利を有するものではない。

三  証拠(省略)

四  争点に対する判断

争点に対する当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表六行目の「民法九九〇条」の前に「控訴人及び参加人は、包括受遺者が相続人と同一の権利義務を有する(民法九九〇条)ことを前提として、戸籍上の相続人が存在しなくても、包括受遺者がいる場合には、相続人不存在の問題は生じない旨主張する。しかしながら、」を加え、同八行目の「割合で」を「割合を」と改める。

2  同三枚目裏三行目の「解され」の次に「ること、並びに、」を、同行の「相続財産管理人は」の次に「請求があるときは」を、同四行目の「報告義務を」の次に「負う旨」をそれぞれ加え、同五行目から七行目までを「を定めているが、これらの規定及び同法九五八条の二に受遺者という場合、特に包括受遺者を排除しているとは解せられないことに徴し疑いのないところである。」と改め、同四枚目表二行目末尾の次に改行のうえ

「右のように解しても、必ずしも控訴人が主張するような、遺言制度の趣旨を没却することにはならず、死亡者の債権者、第三者、受遺者の法律関係が不安定なものとなるとはいえない。」

を加え、同四行目の「民法」から同五行目末尾までを「民法第五編第六章の手続を行い、その手続の中で包括受遺者の権利を実現すべきであって、遺言執行者及び包括受遺者は、その手続によらずに死亡者の遺産を取得することはできないというべきである。」と改める。

五  結論

以上のとおりであって、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、当審において追加された控訴人の予備的請求も理由がないからこれを棄却し、当審参加人の請求のうち、控訴人に対する請求部分は理由があるからこれを認容し、被控訴人に対する請求部分は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用及び参加訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

信託総合口座  取扱店 六八〇

一 普通預金口座番号 二八五七六八八

二 取引番号 九三〇四六三〇八

通帳番号 〇一〇一

三 貸付信託(ビッグ)元金四五〇万円

預り日  平成四年七月二八日

償還期日 平成九年八月五日

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